A.年俸制は本来労働時間に関係なく、労働者の成果・業績に応じて賃金額を決定しようとする賃金制度です。しかしながら、労働基準法では労働時間の長さをとらえて規制をしていますので、年俸制を導入した場合にも、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、時間外手当を支払わなければならないことになります。
ただし、労働基準法では、管理監督者、機密事務取扱者については、労働時間に関する規制がありませんので、労働時間が法定時間を超えても割増賃金を支払う必要はないとされています。また、裁量労働制などのみなし労働時間制の場合には、実際の労働時間に関係なく、みなし時間に応じた年俸が設定されていればよいことになります。
年俸制は労働時間とそれに応じた賃金という制度となじまないものですから、年俸制を適用する労働者は上記の二つに該当する職種が適切であると思われます。一般職員に年俸制を適用することは不可能ではありませんが、年俸制を適用する場合、実際の労働時間が法定労働時間を超えれば、時間外手当を支払わなければなりません。
なお、割増賃金の支払を必要としない労働者であっても、労働時間の把握はする必要がありますので留意してください。
A. 年俸制は賃金に関する制度として労働契約の中で重要な要素ですから、会社側が一方的に制度を導入すべきではなく、基本的には対象労働者個々人の同意を前提として導入すべきものと考えられます。
しかし、個別の同意の有無にかかわらず事業場として統一的に制度を導入する場合には、労働組合や個々の従業員と話し合いの上、就業規則を改正して導入するということが考えられます。その場合には、当然のことながら就業規則の不利益変更一般の問題と同様に改正内容が合理的であることが必要となりますし、また、年俸制は賃金制度の一形態ですから通常の就業規則の変更と同様に労働基準法に定める就業規則変更の手続きを取らなければなりません。さらに、変更後の就業規則について労働者への周知が必要になります。
A.労働基準法第24条第2項は本文において定期払いの原則を定め、ただし書きで「臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定める賃金についてはこの限りでない」として、(1)臨時に支払われる賃金、(2)賞与、(3)その他命令で定める賃金、以外のものは全て毎月1回以上の支払を求めています。そして、賞与についてはご指摘の通達があるため、貴社の「賞与」はその額が16分の2と事前に特定されているので、労働基準法上の賞与とはみなされません。そこで、毎月払の原則に反するのではないかという疑義が生じるわけですが、16分の4の額については特定月の月俸の支払に加えて別に支払われるものであり、「毎月1回以上、一定期日払」の原則には反しないと考えられます。
A.年俸制であれば、時間外手当を支払う必要はないという考え方は間違いです。労働基準法第41条に規定する管理監督者などを除いて、労働基準法で定める労働時間を超えて労働させるときは同法第37条に基づき、時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。
質問の場合のように、年間の業績評価に対する給与として年俸で契約したとしても、割増賃金の考え方は通常と変わらず、所定労働時間を超えていても法定労働時間以内であれば1時間当たり通常の時間単価又は通常の労働日の賃金の時間単価分を支払えばよいわけですが、法定労働時間を超えた場合は、1時間当たり、通常の時間単価又は通常の労働日の賃金の時間単価の1.25倍の割増賃金を支払わなければなりません。
A.時間外労働手当については、通常の労働時間の賃金の2割5分以上の率であればそれを上回って支払うことはかまわないわけですから、時間外労働を50時間行ったものに対して100時間分支払うことは違法ではないことになります。しかし、100時間を超えて時間外労働を行った場合は、その上回った分の時間外労働の差額を支払わなければなりません。
なお、年俸額に定額の時間外労働手当を含むとした場合は、各月に分割して支払う年俸額についても、それに含まれる定額の時間外手当額を明確にすることが望ましく、その際、実際の時間外労働から計算される時間外手当が定額の時間外手当を上回るときは、その差額を支給する旨を定めておかなければなりません。
A.お尋ねの貴社の年俸制は年俸額が前年実績などで全て確定しており、それを月例賃金といわゆる賞与部分に分けて支払っているということであり、確定年俸制ということになります。
ところで、確定年俸制を採用している貴社における年2回のいわゆる賞与は、その額が16分の4などと事前に特定されているものであり、貴社において仮に「賞与」という名称で支払っていても労働基準法上の賞与とはみなされないことになります。
そして、平均賃金を算出するための「賃金の総額」には、算定事由発生日以前の3か月に実際に既に支払われた賃金のみならず、算定事由発生日において既に債権として確定している賃金も含まれることになりますので、貴社においては、賞与分を含めた年俸総額を12で除した額を1か月の賃金として平均賃金を計算することになります。
ですから、貴社において社員の希望により二通りの支給方法を採っているとしても、年俸額(16分の16)を12で除した額を基礎として平均賃金を算出することになりますので、賞与の比率を変えたとしても平均賃金は変わらないということになります。
A.毎月の月例賃金は所定の支払期日に賃金請求権が発生するものと解され、退職月の月例給与は特段の定めがなければ既往の労働については日割りすることになり、支払の方法は労働基準法第23又は24条の定めるところに拠ることになります。
また、退職後の月例給与については、確定年俸制だからといっても退職・解雇など労働契約が終了し、それ以降労働を提供していないものは特段の約定がない限り、退職労働者に賃金請求権はないと解されます。
一方、確定年俸で賞与という名称で支払う部分に関しては、当該年度始めから退職月までの月数又は日数に応じた部分について、労働契約終了時に請求権を持つと解せられます。したがって、確定年俸額全額を、労働した日数に応じて日割計算し、既払い額を減じて残りを支払わなければならないことになります。
A.労働基準法では、賃金の支払いに関し「全額払」の原則が定められており、賃金は全額支払わなくてはなりません。しかし、労働者自身の都合による欠勤、遅刻、早退に対して、その賃金を支払うか否かは当事者の取り決めによりますので、欠勤等には賃金を支払わないと決めた場合には、賃金債権そのものが生じないのであって、それは年俸制においても同じことです。
ご質問の2点目の欠勤控除の計算方法については、特段の定めがあればそれに従うことになりますが、この特段の定めは労務の提供がなかった限度で定める必要があります。 特段の定めがない場合は、欠勤1日につき、年俸額を年間所定労働日数で除して得た日額を控除するのが妥当な方法ですが、この際、賞与分を含めて算定するかどうかは取決めによりますので、就業規則(賃金規定)を整備することが必要です。
A.退職金制度は、重要な労働条件の一つです。その決定、計算の方法は、雇い入れ時に個々の労働者に書面を交付することにより明示するほか、就業規則により定めなければなりません。判例では、就業規則の変更にる労働条件の一方的不利益変更は原則として認められていません。変更内容が合理的なものである場合に限り、個々の労働者が同意しなくとも適用を拒めないとされています。退職時の賃金を算定基礎額として退職金を計算する方法から、別の制度に変更することが不利益変更に当たるのか一概には言えないでしょうが、退職金の額の減少を伴う時には不利益変更と判断される可能性が高いと思われます。
したがって、貴社の場合も年俸制の導入を含め、退職金制度変更についての労働者の同意を得るよう努めることが肝要です。